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今日もいい天気、59、陽気な鼻沢さん続き

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鼻沢さんは、フットエンジンをかけてゆっくりと車を発進させる。
「ねえ、少し牧場に立ち入ったからって、大げさじゃない?ちょっとした出来心なんだけどなあ?」
「ちょっとした出来心?いやいや、分かんねえな、悪いことをする奴は、みんなそういう言い訳をするんどからな。」
「何よ、私、どんな悪いことを企んでいそうかしら?」
「…ウチの牛、くすねようと思ってんじゃねえのか?」
「は?ウシ?牛をくすねる?」
「んだ。タレコミがあったんだよ。牛なんて盗むには下見に来るだろうからな、だから張ってたんだよ。」
青い作業着の男は、どうだ!図星だろう!というふうに自慢げな顔つきだ。
「ち、違うわよ、私、牛なんて盗まないわよ。飼い方も知らないのに…」
「まあ、本部に行ってからみんなに話すんだな、ほら、着いた。」
鼻沢さんが車から降りると、中世の城を真似て失敗したような、出来の悪い演劇のハリボテのような建物が目の前に現れた。
「青い空の会」
と門の上にデカデカと横書きされている。
鼻沢さんは何でも良いから何かお世辞を言おうと思ったけど、口をあんぐり開けたまま言葉が出ない。
「おどれーたか?ウチの本部だ。ほれ、行くぞ、ついてこい!」
と男は鼻沢さんを建物の中に促す。
鼻沢さんは、しぶしぶ建物に入っていく。

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開催日時
月1回開催。毎月第3か第4日曜日が多いです。

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hisayan45-a2@yahoo.co.jp

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当会は平成26年4月から始まりましたが、当会の前身となる「灯下会」はさらに数十年の歴史があるとのことです…

このページでは、これからの会の予定とこれまでのまとめを載せていきます。  毎月第3か第4日曜日の午後3時から。(最近は第4日曜が多い。)  場所は都内某所(たぶん四谷あたりの喫茶店)。  会費は特にありません(自分の喫茶店の代金と、2次会に行った場合は割り勘で。)

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