鼻沢さんは、フットエンジンをかけてゆっくりと車を発進させる。
「ねえ、少し牧場に立ち入ったからって、大げさじゃない?ちょっとした出来心なんだけどなあ?」
「ちょっとした出来心?いやいや、分かんねえな、悪いことをする奴は、みんなそういう言い訳をするんどからな。」
「何よ、私、どんな悪いことを企んでいそうかしら?」
「…ウチの牛、くすねようと思ってんじゃねえのか?」
「は?ウシ?牛をくすねる?」
「んだ。タレコミがあったんだよ。牛なんて盗むには下見に来るだろうからな、だから張ってたんだよ。」
青い作業着の男は、どうだ!図星だろう!というふうに自慢げな顔つきだ。
「ち、違うわよ、私、牛なんて盗まないわよ。飼い方も知らないのに…」
「まあ、本部に行ってからみんなに話すんだな、ほら、着いた。」
鼻沢さんが車から降りると、中世の城を真似て失敗したような、出来の悪い演劇のハリボテのような建物が目の前に現れた。
「青い空の会」
と門の上にデカデカと横書きされている。
鼻沢さんは何でも良いから何かお世辞を言おうと思ったけど、口をあんぐり開けたまま言葉が出ない。
「おどれーたか?ウチの本部だ。ほれ、行くぞ、ついてこい!」
と男は鼻沢さんを建物の中に促す。
鼻沢さんは、しぶしぶ建物に入っていく。
今日もいい天気、59、陽気な鼻沢さん続き
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執筆者:hisatez