部屋の中はやけにだだっ広く、高い天井から青白いLEDの灯りが冷たく照らしている。
横長に並行して黒い台がしつらえられて、それぞれの台の前の棚にいろんな色の薬瓶やガラス器具が並べられている。
黒い台の上には、左右にひたすら試験管を振り続ける機械、ウーンと唸っている丸い機械、巨大な銀の冷蔵庫、ガラスの扉の向こうに並んだたくさんのシャーレ、薬さじや小さなチューブやどんな用途で使うのか分からないガラス器具、ノートやテキストが台の上に載っている。
実験室。
巨大な実験室だ。
人はいない。
いや、鼻沢さんの位置からは見えないだけだ。
平行に並んだ長細い実験台の奥の方から、複数人の声とテレビからの声が聞こえる。
中腰でそっと話し声の方に行ってみる。
部屋の奥は、実験台がなくてテーブルがあり、ホワイトボードと大きなテレビが置かれている。
白い実験着を羽織った10人ほどの男女が、コーヒーカップを持ったりソファーにもたれかかったりノートにメモを取ったりしながらテレビを囲んでいる。
いや、テレビと思っていたものは、たんなるモニターのようだ。実験着の人間たちは、テレビの中の人物としきりに話し込んでいる。
遠隔会議システムなのだろうか。
「このペプチド断片で十分な抗体が…」
「発現の宿主も…」
「エルエムシックスよりも効率よく…」
と、ホワイトボードにイラストとよく分からないアルファベットを羅列して、議論している。
みんな議論に没頭していて、鼻沢さんのことにはつゆ気づいていないようだ。
鼻沢さんはスマートフォンを取り出してこっそりと勝夫に電話をかける。
今日もいい天気、54、追跡続き
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執筆者:hisatez