「えー、それから、最後にご報告ですが、本日未明、都内病院において天然痘患者2名の発生を確認しました。1名は死亡、もう1名は治療継続中であります。保健所を通じて、同院を閉鎖、接触者の探索を開始しておりますことをお伝えいたします」
と、菅田官房長官は夕方の定例記者会見で発表した。
記者たちはポカンとしてお互いに顔を見合わせる。
「天然痘って、あの、有名な病気の?」
「そうです、有名な病気の天然痘です」
この直前に、総理夫人が後援者たちと屋形船に乗る接待をしたとか、それが賄賂にあたるとかなんとか、記者たちにしつこく絡まれて、普段は穏やかに話す菅田官房長官が珍しく怒気をふくんでやりあった後だったので、記者会見場にはギクシャクした空気が残っていた。だから、記者はおずおずと尋ねたのだった。
「流行にならないんですかね?」
「そうならないように、迅速適切に対処中です」
と不機嫌そうに答える。
記事の原稿締切時間が迫っていたこともあって、記者たちは追加で質問することなく記者会見は終了となった。ウイルス出現の経緯、テロの可能性、治療方法、予防方法、予想される国民生活への影響、…などについていっさい質問することはなかった。
そして記者たちは、その場でパソコンに向かってキーをたたき始める。田部政権を批判するべく、ほとんど言いがかりのような記事を書くことに専念して。
今日もいい天気、56、記者会見
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執筆者:hisatez