と、不意にテレビモニターに電源が入り、妙なファンファーレが鳴り響く。
突然の大音量に、鼻沢さんも驚いて思わずテレビモニターに目をやる。
すると…
画面いっぱいに、老いた男の顔が映し出される。
上は禿げて両サイドに白髪、ぽってりした福々しい頬、牛乳版の底のようなメガネ。
そして、猫が数匹くっついている。
肩にのぼったり、胸を這い上がろうとしたり、頭の上で眠ったりしている。
猫に爪を立てられたのか、顔面や首筋に引っ掻き傷がちらほら見える。
奇妙な猫男…
「青山康晴です」
と、猫男は傍若無人にまとわりつく猫に構わず、モニターから話しかける。
「青い空の会の代表をしています。」
青い空の会?
なんだそりゃ?
「あなたは、お名前は?差し支えなければ」
とモニターから話しかけられる。
こっちの声も向こうに聞こえているのかしら?
「あ、鼻沢鼻子です」
「鼻沢さんね。」
やはり、向こうにもこちらの声が聞こえるようになっているようだ。
しばしの沈黙の後、唐突に
「君は今の民主主義について、どう思うかね?」
と、甲高い声で尋ねる。
「え?民主主義ですか?」
と、鼻沢さんは聞き返す。この状況で出てくる質問としてはいささか突飛すぎるから。
「そう。民主主義について。1人1票。みんな同じ。平等でいいじゃないか、と思うかね?」
「え…まあ、そう思いますよ…だって、それが民主主義なんでしょう?」
「いやいや、それでは論理循環だ。もっと本質的なところを考えて見たことはないかな?たとえば、ある土地の区画整理をしようという時。もう80歳の人は『このまま静かにして欲しい』といって区画整理に反対。まだ30歳の人は『区画整理したら便利だし土地の価値も上がる』と賛成。結果、半数の老人が反対してうまくいかない。さて、これは平等かね?」
さらに突飛な質問だ…
鼻沢さんとしては、この質問に答えるより、どうして今、私にこんな質問をするのか尋ねたいが、猫男には、まずは彼が発した質問に答えなくてはと思わせる、会話のペースに巻き込む力があった。
今日もいい天気、61、問答
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執筆者:hisatez