「悪かったわよ、勝手に入ったのは。でも呼びかけても誰も返事してくれなかったから…」
「ふーん。なんの用事で来たんだい?」
それは…と言いかけて、鼻沢さんは口ごもる。勝男の名前を出すのはまずいかも、と咄嗟に思ったからだ。
「私は不動産屋なんだけど、売ってもらうことはできないかな、って思ったから。賃貸に出してもらうでもいいんだけど。」
「は?不動産屋?」
「ええ。私は不動産屋なの。ほら、最近、古い廃校になった小学校や中学校の校舎を使いたいっていう希望が多いのよね。なかなか雰囲気良さそうだったから、飛び込みで営業しようかと思ってね」
鼻沢さんは、震えることもなくスラスラ言えたと思ったが、青い作業着の男は不審そうな表情で、まだ疑っているようだ。
「まあ、とにかく本部に来てもらうからな?」
群馬なまりが少し感じられる話し方で一方的に言われる。
「あ、それから、これは拳銃じゃないからな。ほれ。」
と、首筋に当てていたものを鼻沢さんに渡す。
茶色いビンの、サントリービックルだった。
「いいよ、飲みなよ」
鼻沢さんは面食らったが、ありがとう、と言って蓋を開けて口をつける。
「飲んだら、本部まで運転だからな。俺がガイドするから。」
今日もいい天気、58、陽気な鼻沢さん続き
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執筆者:hisatez