鼻沢さんは内心怯えながら、でもそれを見透かされないように、毅然とした態度を装う。
「分かったわよ、スマホは渡すわ」
と、男の要求に従う。
バックミラー越しに後部座席を見る。
作業着のような青い服を着た中年の男。服はところどころ泥で汚れている。農夫だろうか。緊張した面持ちで、右手に持った拳銃とおぼしきものを鼻沢さんの首筋に押しつけている。
男は左手でスマホを受けとる。
「ねえ、拳銃はやめてくれないかな?絶対抵抗したりしないから」
と鼻沢さんが提案する。
すると、男は急に大声で笑い出す。
「はっはっは、拳銃ねえ…どうしようかな?お魚くわえたドラ猫ちゃん?」
「私、何も悪いことしてないのよ?」
「ほー、ワシらの牧場に勝手に這入りこんで来るのも悪いことじゃないってか?」
男の追及に、鼻沢さんも口ごもってしまう。
しかし、男の話ぶりはどことなく呑気な雰囲気をはらんでいる。
今日もいい天気、57、陽気な鼻沢さん
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執筆者:hisatez