紹介を受けて、茶谷医師は居ずまいを正して、
「はい。私は神田病院で天然痘患者2名の診療に当たりました。1名は20代女性で、おそらく一番最初の発症患者です。神田病院付属の研究所勤務の研究者でした。正しい診断に至るまでに時間がかかったこともあって、昨夜亡くなられました。」
「えっ、死者が出ているのかね?」
総理が質す。
「はい。天然痘は、すでに撲滅されたことになっている疾患ですから、診療経験のある医師はほとんどいないのです。そのため、どうしても患者に遭遇しても、正しい診断に行き着くのに時間がかかるのです。」
結核感染症課長も深く頷いている。
「診察した患者のもう1人は、神田病院の勤務医師です。その初発患者の診療に当たっていました。現在、深刻な状況です。」
「亡くなりそうなのかね?」
「分かりません。天然痘に対する根治的な治療法はないのです。発症してしまっては、対症療法で凌いでいくしかありませんからね。あとは体力が勝負の分かれ目です。」
「治療法は無いのかね…」
官房長官が唸る。
「はい。流行が疑われる懸念される場合は、ワクチン接種による予防に努めるしか、打つ手はないでしょう。」
腕組みをしながら聞いていた総理が、
「ワクチン接種、とは、予防注射のことなのかな?」
などと初歩的なことを質問する。
無理もない、事実上のこの国の最高権力者といえども、専門的な医学知識など持ち合わせているわけはないのだから。
それを見てとって、茶谷医師が分かりやすく説明する。
「そうです。ワクチン接種とは、予防注射のことです。政府として、今すぐやらなければならないことは、患者の発生を確実に捕まえることと、患者の足取りを追跡して、患者と接触した者たちを把握することです。患者が発生した場合は、専門の病棟を持つ病院に一括集約して治療にあたらせるべきです。また、患者と接触した者たちには、優先的にワクチン接種していくべきです」
「感染してしまった後でも、ワクチン接種をすれば良いのか?」
「ええ。感染成立後でも、4日以内ならワクチン接種により発症が抑えられるか、もしくは発症しても症状が軽減できるとされています。4日目以降でも効果がある場合は多いでしょうね」
今日もいい天気、47、カスケード続き
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執筆者:hisatez
