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今日もいい天気、47、カスケード続き

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紹介を受けて、茶谷医師は居ずまいを正して、
「はい。私は神田病院で天然痘患者2名の診療に当たりました。1名は20代女性で、おそらく一番最初の発症患者です。神田病院付属の研究所勤務の研究者でした。正しい診断に至るまでに時間がかかったこともあって、昨夜亡くなられました。」
「えっ、死者が出ているのかね?」
総理が質す。
「はい。天然痘は、すでに撲滅されたことになっている疾患ですから、診療経験のある医師はほとんどいないのです。そのため、どうしても患者に遭遇しても、正しい診断に行き着くのに時間がかかるのです。」
結核感染症課長も深く頷いている。
「診察した患者のもう1人は、神田病院の勤務医師です。その初発患者の診療に当たっていました。現在、深刻な状況です。」
「亡くなりそうなのかね?」
「分かりません。天然痘に対する根治的な治療法はないのです。発症してしまっては、対症療法で凌いでいくしかありませんからね。あとは体力が勝負の分かれ目です。」
「治療法は無いのかね…」
官房長官が唸る。
「はい。流行が疑われる懸念される場合は、ワクチン接種による予防に努めるしか、打つ手はないでしょう。」
腕組みをしながら聞いていた総理が、
「ワクチン接種、とは、予防注射のことなのかな?」
などと初歩的なことを質問する。
無理もない、事実上のこの国の最高権力者といえども、専門的な医学知識など持ち合わせているわけはないのだから。
それを見てとって、茶谷医師が分かりやすく説明する。
「そうです。ワクチン接種とは、予防注射のことです。政府として、今すぐやらなければならないことは、患者の発生を確実に捕まえることと、患者の足取りを追跡して、患者と接触した者たちを把握することです。患者が発生した場合は、専門の病棟を持つ病院に一括集約して治療にあたらせるべきです。また、患者と接触した者たちには、優先的にワクチン接種していくべきです」
「感染してしまった後でも、ワクチン接種をすれば良いのか?」
「ええ。感染成立後でも、4日以内ならワクチン接種により発症が抑えられるか、もしくは発症しても症状が軽減できるとされています。4日目以降でも効果がある場合は多いでしょうね」


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四谷ルノワールか、高田馬場カフェミヤマのことが多いです。

開催日時
月1回開催。毎月第3か第4日曜日が多いです。

どうぞお問い合わせください
hisayan45-a2@yahoo.co.jp

芥川賞の歴代受賞作を読んで、お互いの感想を述べあいながら理解や感想を共有する会です。  (たまにはノーベル賞ピューリッツァー賞ブッカー賞ゴングール賞もやりたい)

当会は平成26年4月から始まりましたが、当会の前身となる「灯下会」はさらに数十年の歴史があるとのことです…

このページでは、これからの会の予定とこれまでのまとめを載せていきます。  毎月第3か第4日曜日の午後3時から。(最近は第4日曜が多い。)  場所は都内某所(たぶん四谷あたりの喫茶店)。  会費は特にありません(自分の喫茶店の代金と、2次会に行った場合は割り勘で。)

芥川賞は、書かれた時代の社会を映し出している側面が強いので、  その時代の雰囲気・空気みたいなものまで感じることができれば良いなと思っております。

参加者のほとんどは、文学を専門にしたことがない人ばかりです。  和気あいあいと、自由に議論していますよ!  よろしければご参加ください。

当会の活動の履歴、これからの予定、その他お知らせするサイトです。