「つきまとう父の影」

平成28年7月
「岬」中上健次


「岬」(ページ数は文春文庫第32刷)

このアンソロジーは4つの短編から成っているが、いくつかのエピソードが重複している。主人公が12歳の時に24歳で自殺した兄、肋膜を患って大金をかけて大手術をした姉、など。中上健次が何とかして書かねばならないと感じたモチーフなのであろう。


この小説は、短かい文章でたどたどしく書かれている。その分、まるで登場人物たちの息づかいが聞こえてくるかのような生々しさを感じさせられる。
その生々しさゆえに、家族間の確執やしがらみ、憎しみや好意、が、明確な理由を示されていないのに、読者は納得させられてストーリーを読み進めて行く。
姉は愛情を注ぎ込まれ、兄は憎しみをぶつけられる。理由は明示されない。
登場人物たちは、性的にもかなり開けっぴろげであるが、セックスする理由もやはり示されない。
しかし、そもそも人と人が引き合ったり反発したりするのには明確な理由などないのかもしれない、などと思わされてしまうのが、中上健次の腕力なのだろうか。

秋幸は、妹を犯すことで、兄を越えられたろうか。父に復讐できただろうか。出来の悪い自分のイミテーション達に。

古市は、古い血につながるか。
名字が示されないのは、この登場人物たちが大きな意味でひとつの家、ということを示していると言えるとの指摘もあり。

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