「芥川賞黎明期」

平成28年2月
「糞尿譚」火野葦平



第6回受賞作です(^^)
田舎の政治闘争と経済を描いている。弱い一般大衆が虐げられる哀愁と欲をかいて失敗する滑稽味とかミックスされたドタバタ劇。
同業者でカルテルを組もうとしたり(失敗に終わるが)、雇い人たちにストライキを起こされてまんまと賃金を上げさせられたり、作者は社会構造に関心が強かった様子。
滑稽で読者は思わず苦笑するが、大笑いになる人は少ないと思う。それは、限られたパイを奪い合うさもしさ惨めさが付きまとっているからではなかろうか。冒頭の田んぼの水を抜いて鯉が泥にまみれて捕まって赤瀬氏に献上されてしまうのは、彦太郎の未来を暗示している。


この回の芥川賞は、他の候補作は中堅作家によるど真ん中のプロレタリア文学だから避けられて本作の受賞となった、とか。
しかし、本作も労働者の哀愁を描いていて、プロレタリア文学的要素は多分に含まれている。けれども、あまり左がかったイデオロギー臭さは感じられない。
その理由は、ありきたりなお説教に落とし込まなかったからではないだろうかと思う。
「卑怯な権力、哀れな民衆」のような単純な図式は分かり易いが本当の姿を描いていないから、人の心を動かさない。
その点、この作品はたとえば、主人公彦太郎は権力者からも雇用人からも搾り取られ、お人好しで自分からも無駄な金を使ってしまう、少し知恵が足りないがために損なめぐりになっているというだけではなく、彦太郎自身が酒に溺れたり女にだらしなかったり金に執着する面があったから最後は追い込まれてしまう訳で、自業自得な面もある。このように、人間の多様な面に目配りして人物が描かれているからリアルさと親しみが持て、読者は作品に入り込める。


前回は第4回の「普賢」と、芥川賞が始まったころの熱気や文学の方向性が垣間見えるようで面白い。

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