「未成年はお酒を飲んではいけません!(アル中になっちゃうんだから)」
平成27年6月
金原ひとみ「蛇にピアス」
金原ひとみ「蛇にピアス」(ページ数は、集英社文庫第10刷版)
本作は、作者が20歳の時、第130回芥川賞を受賞したが、同時に受賞したのがまだ19歳の綿矢りさだったので、注目を浴びた。話題先行などと言われがちな二人の受賞作ですが、さてその内容は如何に…
やはり、どぎつい描写が多くて読むのが辛かったという方がいました。
そして、何が何だかちんぷんかんぷん、という意見もあり。登場人物の選択や行動の理由がよく分からない、ということのようでした。
さて、このよく分からない行動をする3人の、相互の関係を洗い直してみると…
まずはルイとアマの関係について。
なぜルイはアマに惹かれたのか?
いちおう、ルイはアマの人間性ではなく「男よりも舌に対して」(55ページ)好きな気持ちを持ったので付き合いだした。自分もスプリットタンにしたくなったとまで言う。
しかし、実際にはルイはアマの優しさに包まれてそれなりの居心地の良さを感じている。アマがいなくなってしまったときに、ルイは取り乱して半狂乱になってしまったほどだ。
この二人の関係は、読んでいるとハラハラさせるような危うさがある。
ルイもアマも、お互いの存在に重みを置きすぎている。二人とも自分に芯が無くて、とても幼いように見える。
その幼さゆえに不安を覚え、ふたりで同じようなスプリットタンにしたり刺青を入れたりして、その不安を押し流しているかのようだ。
この二人はそれぞれ他人と共通点を持ったり痛みを共有することで不安を解消しているのだ。
次に、シバとアマの関係について。
この作品は、サスペンスタッチになっているのが特徴である。
アマが無残な殺され方をしたが、犯人にはいくつかの可能性がある。仲間を殺された仕返しに暴力団がやった?あるいは、シバが?
シバであると仮定するなら、シバがアマを殺す動機は何であるのか?
ルイをアマから奪いたかったから?
警察からは重要な情報がルイ(および読者)にもたらされる。
アマは同性愛者であった可能性が高い、と。(ゲイの人は、肛門が広がってしまっているなどのことからそれと分かることがあるのだ。作者は20歳にしてそんなことを知っていたんですね。ひとみちゃんたら、もう…エッチなんだから。)
アマが同性愛者なら、誰と付き合っていたか?シバ?しかし、アマはシバとルイとの二股をかけるような器用なことができるだろうか?
シバがアマを警察にたれこむとか脅して犯していた可能性はあるかもしれない。
これらの推測は、作中に描かれたことからだけでははっきりとは分からない。
しかし、シバは、ルイにモーションをかけながら、同時にアマにも手を出して殺してしまった可能性が高そうだ。
ルイも、いくつかの状況証拠から、犯人はシバであると確信しているようだ。
つまり、ルイにとっては自分の恋人アマを殺したのはシバである、ということは事実なのだ。
その事実を突きつけられて、ルイはシバから離れるわけでなく、警察に告発するでもない。むしろシバと付き合っていくという選択をする。
そして、シバと付き合ってみて、酔っぱらっていなくても心の平安が保たれるようになった。最後の場面で、ビールではなくて水を飲み、「陽の光がまぶしい」と感じるのは象徴的である。
ひとつ疑問なのは、シバは、ルイにアマを殺したのは自分だと気付かれても構わないと思っていたのだろうか?警察の情報とシバの日常生活を突き合わせると、シバが犯人であることを勘付かれる可能性は高いように思われるが。シバは、ルイが自分のほうに来ることを確信していたのだろうか?
ところで、作中では「歯」が印象的な使われ方をしている。アマがおそらくなぐり殺してしまったであろう暴力団員の口の中から取った二本の歯、あるいは、ルイが感極まった時に噛み砕いてしまった自分の虫歯になっていた奥歯。
歯は、性欲とか獣性などのほかに、「痛み」の象徴と言えるかもしれない。歯が折れるほど殴ると痛みを感じる。虫歯を噛み砕くと猛烈に痛い。(そういえば、ちょうど1年ほど前、僕も虫歯を噛み砕いてしまった。)
痛みをまっすぐ受け止められるようになったルイには、この先、どんな未来が待っているのだろうか?
今回も充実した議論ができました。
参加者の皆様に感謝申し上げます。
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