「株価も鳩も、山の稜線もみんな『フラクタル』なんだって!」
平成27年1月
池澤夏樹「スティル・ライフ」
スティルライフ。
そのタイトルの意味を理解するところから、今回の読書会は始まりました。
直訳すると「そのままの生活」。
そしてアート用語の「静物画」。
この作品におけるスティルライフの意味するところは?
今回の参加者さんは理系の方が多いのか、チェレンコフ光、フラクタルなど理系独特のワードが飛び交う中、
純文系の私はひたすら感性で読んでいました。
最も印象的で、かつ作品世界を創り出す最も重要なシーン、
それは主人公が勤め先の染色工場を休んで一人で訪れた「雨崎」という海沿いの町で降ってきた雪。
風景も、周囲を包む空気も、すべてが雪に包まれ雪の温度になっていく中、
自分だけが温度を持ち異物であるような違和感。
そして雪が空から降るのではなく、雪片に満たされた宇宙を、自分が上へ上へと上昇していく感覚。
それはまるで主人公と佐々井が、閉じた世界の中で結局は留まり続け、
その周囲の世界がものすごい勢いで進んでいくような。
雪と大気。ネガポジと彼方に広がる山の稜線。
佐々井と過ごした三か月と、一万年という時間軸。
些末なものから雄大なもの、唯物的感覚から詩的描写へのグラデーション。
株取引や非正規雇用、原発を想像させる描写など物質的なものを描く反面、抽象的で感覚に訴える文章。
結局、佐々井の存在の意味とか、ラストの主人公の向かう先、
そして冒頭の「スティルライフ」の本当の意味、それらは数学的にきっちりとした答えは出ませんでしたが、
「個々の山は消えて、抽象化された山のエッセンスが残る」
それが答えなのでしょうか。
個人的には、なんだか暗いプラネタリウムの中で静かな時間を過ごしたあとに、
出口の扉を開けたときのような眩しい別世界感のような心地よさを覚えた読後感でした。
最後に。
この作品が村上春樹世界に似ているという意見。
例えば主人公がなぜかもてるところ。
また年若いのにバーで自然にお酒を飲むところ。
男性陣が急にヒートアップして「いけすかない!」と口を揃えていたのが印象的でした。笑
(written by natsuko氏)
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